「歴史上最も偉大な種牡馬はどの馬か」競馬ファンを熱くさせるその問いは、世界中のどこかで今もなお議論されている。ような気がしないでもない。
競馬発祥の地であるイギリスの歴代名種牡馬を紹介しつつ、どの馬が最も偉大な最強の種牡馬かを考えていきたい。この記事を見るだけで、血統の歴史を知ることが出来て、これからの競馬ライフをより楽しめるようになるだろう。そういった工夫をこらして書いてみたので、楽しんでおくれ。
まずは歴代の英愛リーディングサイアーから、最も多くのリーディングに輝いたキング・オブ・リーディングのランキングを発表しよう!
キング・オブ・リーディング
【1位】14回 サドラーズウェルズ 1981~2011
【2位】13回 ハイフライヤー 1774~1793
【3位】12回 ガリレオ 1998~2021
【4位】10回 サーピーターティーズル 1784~1811
【5位】9回 セントサイモン 1881~1908
【6位】8回 レギュラス 1739~1765
【6位】8回 ヘロド 1758~1780
【8位】7回 ハーミット 1864~1890
【8位】7回 ストックウェル 1849~1870
【8位】7回 ベイボルトン 1705~1731
サドラーズウェルズとガリレオ親子はやはり歴史的に見てもすさまじい種牡馬成績をおさめているのがわかる。
さて、ここで「あれ?ノーザンダンサーやネアルコは入ってないんだ。」と感じた人もいるだろう。
近代競馬に多大な影響力をもつネアルコはリーディングは2回しか獲得していない。
ノーザンダンサーは4回だ。それでもじゅうぶん凄いけど。
次は先ほどのキングオブリーディングの馬を含め、ネアルコやノーザンダンサーなどのように影響力の大きな名種牡馬たちを時系列順に紹介していこう。
こうすることで競馬の血統の歴史や系統がよくわかると思う。
血統の歴史
推定1680年生まれのバイアリーターク、推定1700年生まれのダーレーアラビアン、推定1724年生まれのゴドルフィンアラビアンの3頭。サラブレッドの父系を辿れば必ずこの3頭に行きつく。
中でも90%以上の圧倒的な占有率を誇るのがダーレーアラビアンでエクリプスによって大きく広がった。
ファラリス、ネアルコ、ノーザンダンサー、ナスルーラ、ネイティヴダンサー、ミスタープロスペクター、ロイヤルチャージャーなどが子孫にあたる。
バイアリータークはヘロドによって大きく繁栄した時期もあったが、19世紀後半から一気に衰退し、今ではわずかに残るばかりに。
ゴドルフィンアラビアンはマッチェムによって広まったが、ヨーロッパでは常にマイナーな血統として存在してきたが、アメリカでは子孫がリーディングを取るなど活躍し、名馬マンノウォーも誕生している。
今ではやはり父系は少なくドリームアヘッドやティズナウが頑張っている。
父ターター母父ブレイズという血統を持つイギリス産馬。
バイアリータークから数えて5代目に当たる。
現役時代は10戦6勝でまだレース体系も整っていない時代で500ギニー競争を勝ったり、1000ギニーマッチレースを勝った、というような記述しかない。
種牡馬として1777年~1784年まで8年連続でリーディングを獲得するなど大活躍。
主な産駒にフロリゼル、ハイフライヤー、ウッドペッカーなど。
ヘロドのすぐ後に産駒のハイフライヤーが種牡馬として13年連続リーディングを取るなど、この頃の主流な血統はヘロド系であった。
また、現代のサラブレッドに与える血統的影響はヘロドが1番という研究結果も出ている。
父マースク母父レギュラスという血統を持つイギリス産馬。
ダーレーアラビアンから数えて5代目に当たる。
現役時代はまだ貴族や富豪の賭け合い勝負のスポーツのようなもので、今のようなレース体系はなかったが、18戦18勝という成績を残している。
種牡馬としても活躍したが同時期にヘロドとハイフライヤーがいてリーディングは獲得していないが、1778年~88年まで歴代最多となる11年間リーディング2位という記録を持つ。
主な産駒はキングファーガス、ポテイトーズ。
キングファーガスはセントサイモンの祖先であり、ポテイトーズはネアルコ、ハイペリオンの祖先である。
父ヘロド母父ブランク(その父ゴドルフィンアラビアン)という血統を持つイギリス産馬。
1785年~1796年、1798年と13回ものリーディングサイアーに輝き、その記録はサドラーズウェルズが現れるまで200年以上破られなかった。
現役時代も12戦無敗という成績を残しフライングチルダーズ、エクリプスと並び「18世紀3名馬」と呼ばれている。
父ハイフライヤー母父スナップという血統を持つイギリス産馬。
現役時代はダービーを勝つなど15戦13勝と当時の最強馬として活躍。
1799年~1802年、1804年~1809年の通算10回のリーディングサイアーを獲得。
主な産駒にウォルトン、サーポール、サーハリーなど。
ヘロド→ハイフライヤー→サーピーターティーズル→ウィルトン→ファントムと5代に渡って通算35回ものリーディングを獲得するという偉業も達成している。
父サバロン母ポカホンタス母父グレンコーという血統をもつイギリス産馬。
父系をさかのぼればエクリプスに辿り着く。
現役時代は20戦12勝で2000ギニーとセントレジャーの2冠を制するなど活躍したが、種牡馬としては1860年~1862年、1864年~1867年と7回ものリーディングサイアーに輝き「種牡馬の皇帝」と称された。1866年の産駒獲得賞金の記録は68年間破られることはなかった。産駒のドンカスターから生まれたベンドアが血統を広げ、その子孫からファラリスが誕生し、その流れがネアルコに繋がる。
また母のポカホンタスは「史上最高の繁殖牝馬」と呼ばれていて、ストックウェルのほかにセントサイモンの母父キングトムを生んでいる。
父ガロピン母父キングトムという血統を持つイギリス産馬。
父系を辿ればエクリプスにたどり着く。
現役時代も伝説に残る強さを誇り9戦無敗。
1890年~1896年、1900年~1901年と計9回ものリーディングに輝き、後世に与えた影響から「史上最高の種牡馬」とも称されている。その影響力の大きさから血が飽和状態に陥り父系があまりにも急速に消滅してしまった。
これは「セントサイモンの悲劇」として有名な逸話になっている。
主な産駒に英3冠馬ダイヤモンドジュビリー、パーシモン、チョーサーなど。
特にチョーサーは母父として優秀でファロス、ハイペリオン、フェアウェイ、シックル、ファラモンドという種牡馬を輩出し、セントサイモンの血を大きく広げた。
父ポリメラス母父セインフォインという血統をもつイギリス産馬。
父系を辿ればストックウェルがいる。
おもに短距離を中心に走り24戦16勝という成績を収めている。
種牡馬としてあまり期待されていなかったが、次々と活躍馬を送り出し1925年と1928年にイギリスリーディングサイアーを獲得している。産駒からも名種牡馬が生まれ後世に与えた影響は絶大なものがある。
主な産駒にフェアウェイ、ファロス、シックル、ファラモンドなど。
フェアウェイは英リーディング4回獲得し、ファロスは1924年1931年に英リーディングを獲得しネアルコを生んでいる。
シックルは1936年1938年に米リーディングを取っていて直系子孫からネイティヴダンサーが誕生する。
ファラモンドは産駒のメノウからトムフール→バックパサーと名種牡馬が誕生。
ちなみにシックル、ファラモンドは全兄弟で母は歴史的な繁殖牝馬シリーン。
シリーンは他にもゲインズボローとの間にハイペリオンを生んでいる。
父ゲインズボロー母シリーン母父チョーサーという血統をもつイギリス産馬。
父系をたどればエクリプスにたどり着く。
現役時代は英ダービーを圧勝するなど13戦9勝と競走馬としても一流で「サラブレッドの芸術品」と称された。
種牡馬としては1940~1942、45、46、54年と6度のリーディングサイアーに輝いている。
主な産駒にオーエンテューダー、オリオール、ロックフェラなど。
特にオリオールとロックフェラはオリオール系、ロックフェラ系と呼ばれるほどの繁栄を見せている。
父ファロス(その父ファラリス)母父アヴルサックという血統をもつイタリア産馬。
父系を辿ればエクリプスにたどり着く。
母系などにセントサイモンの血が散りばめられていて、4.5×4.5=18.75%の奇跡の血量と言われるインブリードが発生している。「ドルメロの魔術師」と呼ばれた馬産家フェデリコテシオの狙ったものである。
現役時代は14戦14勝と最強馬と呼ぶに相応しい活躍を見せ、種牡馬としても後世の歴史に大きく影響する成績を残している。リーディングに輝いたのは1947年1949年の2回だが、産駒からはナスルーラ、ロイヤルチャージャー、ニアークティックなどを輩出。ニアークティックはノーザンダンサーを生みだし、ロイヤルチャージャーからターントゥ→ヘイルトゥリーズン→ヘイロー→サンデーサイレンスとつながる。ヘイルトゥリーズンはロベルトも生んでいて、日本競馬への影響も大きい。
父ネアルコ母父ブレニムという血統をもつイギリス産馬。
気性が激しく先頭にたつと気を抜くなど、英チャンピオンSを勝ったものの競走馬としては10戦5勝と不完全燃焼な部分もあったが、種牡馬としてその才能を爆発させた。
1951年には英愛リーディングを獲得、アメリカへ渡り1955~1956、1959~1960、1962年と5回もの北米リーディングに輝いき英愛と北米のリーディングを取る偉業を成し遂げた。
主な産駒にネヴァーセイダイ、ネヴァーベンド、ボールドルーラー、グレイソヴリン、プリンスリーギフト、レッドゴッドなど競馬ゲームでおなじみの名種牡馬の名前がズラリ。
直系子孫からセクレタリアト、シアトルスルー、ミスターシービーと3冠馬が誕生している。
日本では直系子孫のバゴが種牡馬として活躍中。
父ポリネシアン母父ディスカバリーという血統をもつアメリカ産馬。
父系を辿ればファラリスがいる。
芦毛の馬体でレースではいつのまにか先頭にたっていることから「灰色の幽霊」と言われた。
競走馬としてアメリカ2冠など22戦21勝と名馬と呼ぶにふさわしい成績を残して種牡馬入りした。
種牡馬としても活躍したが、意外にも北米リーディング2位が最高でリーディングサイアーにはなっていない。
しかし残した産駒は代を経て歴史に残る名馬を数多く残している。
主な産駒にレイズアネイティヴ、ナタルマ、エタンなど。
レイズアネイティヴはミスタープロスペクターを輩出し、ナタルマはノーザンダンサーの母となった。
エタンはシャーペンアップから血を広げエタン系と呼ばれるまでに。
父ニアークティック(その父ネアルコ)母父ネイティヴダンサーという血統をもつカナダ産馬。
カナダで2歳チャンピオンになり、アメリカでも2冠を達成し18戦14勝の成績を残した名馬だったが、競争時代の成績がかすむほどの歴史的な記録を残すスーパー種牡馬に。
1970、1977、1983、1984年の4回に及ぶ英リーディング、アメリカでも1971年にリーディングを獲得している。
主な産駒に英3冠馬ニジンスキー、日本で10年連続リーディングを取るノーザンテースト、リファール(ダンシングブレーヴの父で、ディープインパクトの母父)ザミンストレル(産駒のパレスミュージックはシガーを輩出)フランスリーディングに輝くヌレイエフ、ストームバード(産駒のストームキャットが北米リーディング獲得)など。
中でも英愛リーディングを史上最多の14回も獲得したサドラーズウェルズは、その産駒であるガリレオがリーディングを12回獲得、さらにガリレオの産駒である怪物フランケルが2021年に英愛リーディングを獲得し長らく世界の競馬の主流として君臨している。
父レイズアネイティヴ母父ナシュア(その父はナスルーラ)
競走馬としては14戦7勝で重賞の2着がある程度だが、引退後は近代競馬を支える偉大な名種牡馬として活躍した。
1987~1988年と2回の北米リーディングサイアーになったが、特筆すべきは産駒たちの種牡馬としての活躍っぷりで世界中でなんと312頭もの馬が種牡馬になっている。
主な産駒はキングマンボ、フォーティナイナー、シーキングザゴールド、アフリート、ウッドマン、ミスワキ、ファピアノなど。
母父としても優秀で、北米のブルードメアサイアーのリーディングに9回も輝いている。これはアメリカ史上2位の記録になる。
シーキングザゴールドからドバイミレニアム→ドバウィとつながり現在の欧州競馬を引っ張っているし、キングマンボ→キングカメハメハ→ロードカナロアやドゥラメンテなど。日本の主流血統にまでなっている。
父ノーザンダンサー母父ボールドリーズン(その父ヘイルトゥリーズン)という血統を持つアメリカ産馬。
現役時代は愛2000ギニー、愛チャンピオンS,エクリプスSなどを制して11戦6勝の成績を残している。
1990年、1992年~2004年とイギリスアイルランドの種牡馬リーディングに13年連続(通算14回)のリーディングサイアーに輝くなど欧州を代表する名種牡馬として君臨し続けた。
主な産駒はガリレオ、モンジュー、ハイチャパラルなど。
ステークスウイナーは323頭で、G1を勝った産駒の数は73頭にも及ぶ。
父サドラーズウェルズ母父ミスワキという血統を持つアイルランド産馬。
母は凱旋門賞馬のアーバンシーで超良血で現役時代も英愛ダービー、キングジョージと大レースを制し8戦6勝の成績を残した。
2008年と2010年~2020年まで11年連続の通算12回ものリーディングサイアーに輝いた。
主な産駒に怪物フランケル、ニューアプローチ、テオフィロなど。
ステークスウイナーは345頭、グループレースウイナーは233頭、産駒G1勝利数は193勝(93頭)
最も後世に影響を与えた種牡馬は?
最強の種牡馬というのは、最も後世に影響を与えた種牡馬のことを指すのか、または産駒から最強馬クラスの馬を何頭も生んだ馬を指すのか、産駒勝利数やリーディング回数を重視するのか、色んな視点があるけど、ここでは後世に与えた影響を考えてみよう。
2018年の報告によると、2000年~2011年のオーストラリアの競走馬13万頭を解析した結果、血統的影響力だとヘロド18.3%。ゴドルフィンアラビアン13.8%、エクリプス13.3%、セントサイモン10%ということがわかった。
セントサイモンの父系は衰退してしまったが、ネアルコやハイペリオンなどセントサイモンのインブリードを持つ馬が影響力をもつため、血統的影響力が高くなっているのだ。
現在ではハイフライヤーやセントサイモンの血を持っていないサラブレッドは世界中に1頭も存在しないと言われているが、実はなんとそのセントサイモンは2017年の最新の研究によるとこれまでダーレーアラビアンの子孫とされていたが、どうやらバイアリータークの子孫の可能性が極めて高いことが明らかになった。
つまりエクリプスの系統ではなく、ヘロドの系統だったということである。
それによるとヘロド産駒のハイフライヤーかウッドペッカーがセントサイモンの父系にあたるのではないかという話だ。もしそれがハイフライヤーなら、もうハイフライヤーが最強の種牡馬と言っても良いかも?
しかし現代のノーザンダンサー隆盛の時代を考えると、やはり今の段階ではネアルコが一番と言えるだろう。
それも今の時代の話であって、これだけ主流になるとヘロドやセントサイモンのように飽和状態に陥り、100年後には衰退しているかもしれない。その頃にはいったいどんな血統が主流になっているのだろうか。
2023年にイギリスダービーを制したディープインパクト産駒のオーギュストロダンが名種牡馬となって世界中がディープ系になっちゃってたりして。
こうやって血統の歴史を眺めてみると本当にそれぞれの血が必ずどこかでつながって影響を与え合っていることがよくわかる。もうサラブレッドはみんな家族のようなもので、どの種牡馬が最強か?なんて考えるのが筋違いなんだろうねぇ。
競馬発症 → 競馬発祥
オーギュストロダンは母父ガリレオだから、サドラー系牝馬が溢れている欧州で成功するのは難しいかもしれませんね。
米国の方が、サドラー系が薄いので成功するかも…